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思惟日記

日々考えたことの記録。

旧車保護の制度の考え方

旧車保護を訴える人たち

 旧車が好きだ。古き良き時代を彩った名車達は長い時間が過ぎようと、全く色褪せることなく我々を魅了する。

 ところで、最近、Twitterで「旧車に高い税金を課せられるのはおかしい」「自動車メーカーは旧車の為に部品を保管するべき」といった意見を散見した。

 名車達が時間の経過と共に減っていくことは残念なことであり、惜しむ気持ちは痛いほど分かる。しかし、自動車税制の変更を当然の権利の如く要求することは行き過ぎだろう。少なくとも、旧車に対して割増課税が為されることに理由がある以上、その理由と旧車保護の関係について考えた上で要求する必要があるだろう。

 そこで今回は、自動車税のあり方に関して考えてみる。

 

旧車への割増課税の長所

 現行制度の下では、①新車から13年経過したガソリン車と②新車から10年経過したディーゼル車は自動車税が重く課せられている。

 旧車に自動車税が重く課せられることに不満を感じることは理解できる。しかし、税金というものは善悪や価値判断の次元によって決まるものではなく、課税の趣旨があり、その趣旨を実現できる課税方法が制度化され、支払うべき税額が決定される。

 自動車税制の場合は、「国内の自動車需要を喚起して自動車産業の活性化を図ること」が趣旨であろう。そのため、新車の税金は安く旧車の税金は高く設定される。

 税金の上昇は、旧車の維持が難しくなる要因であり、旧車ファンにとっては頭の痛くなる問題であることは事実だ。しかし、この課税方法によって、新車需要が喚起され、自動車メーカーが繁栄することができ、日本経済が活性化されているという合理的理由が存在するのだ。

 旧車への割増課税の廃止を訴えるのなら、現行自動車税制が社会にもたらしている価値(日本経済の活性化)以上の価値が割増課税の廃止によって生じ得ることを証明する必要があるだろう。

 

欧米の旧車保護制度

 旧車ファンの言い分として、「外国では旧車は税制上の優遇を受けられるのに日本ではその逆が行われている」という意見をよく耳にする。それは本当だろうか。

 日本において旧車が自動車税の割増課税を受けるのは上で述べた通りだ。そこで、外国の自動車税制について調べてみたが、その様な旧車保護の特例があることが分かった国はイギリスとドイツとスイスの3カ国のみだった。各国の旧車保護の特例は以下の通り。

イギリス:1974年以前に製造された自動車は自動車税が免除される。

ドイツ:オリジナルの状態でレストアを受けた車齢30年以上の自動車はHナンバ-を申請することができ、認定されれば自動車税が一定額に固定される。

スイス:30年以上前に製造された自動車で年間走行距離が2000マイル(3218km)以内の自動車を数台所有する場合には、最も排気量の大きい自動車にのみ自動車税が課せられる。

 いずれにせよ、世界的に見れば、旧車保護の特例がある国家はあくまで例外的存在に過ぎないのである。そのうえ、数少ない旧車保護の特例がある国家においても、イギリスの場合は74年以降に生産された旧車は自動車税の優遇を受けられないし、スイスの場合は30年以上前に生産された旧車で尚且つ年間走行距離が3000マイル以下でなければならず、非常に厳しい用件の下で限定的に優遇を受けられるに過ぎない。

 これらの実態をよく観察することなく、外国では旧車保護の特例があるのだから日本もそうすべきというのは暴論というものだろう。

 

旧車保護の制度の考え方

 旧車を保護するために日本の自動車税の制度設計を変更するとすれば、どの様な制度設計にするのかが問題となる。例えば、①歴史的価値のある特定車種を優遇する制度とすれば文化遺産保護の色彩が強くなるし、②特定年以前に生産された全ての自動車を優遇する制度とすれば旧車文化を促進する色彩が強くなる。③単に現行制度の旧車割増課税を撤廃するだけとした場合には旧車文化を促進するまでの効果は望みにくい。何を目的とするかで実施すべき制度が変わってくるのである。

 また他方で、前で挙げた①~③のどれを採っても現行制度で実現されていた新車需要の喚起という効果が弱まってしまう。現行制度の新車需要の喚起という効果は、多くの雇用を創出して景気を刺激して日本経済に貢献してきた効果である。自動車税制の変更によって実現しようとする目的(歴史的価値のある旧車の保護など)が、その効果を弱めてまで実現する価値のある目的であるのかもよく検討する必要があるだろう。

 いずれにせよ、「旧車は文化的価値があるから保護するべき」といった単純な発想で語るのではなく、現行制度の景気刺激効果やCO2排出量規制効果といった長所を認めつつ、如何にして旧車保護とのバランスをとっていくかを考えるべきというのが今回の結論だ。個人的には、現行制度は、「個人の好きな自動車に乗る自由」と「新車需要の喚起による景気刺激という制度目的」が丁度良く均衡している良制度であると感じている。たった15%の割増課税に耐えさえすれば大手を振って旧車に乗って公道を走り回れるし、CO2をいくら排出しても道義的叱責以外のペナルティを受けることもない。そう考えると、旧車ファンにとってこの国は悪くない国なのかもしれないとすら思えてくる。

 制度を考える時には、制度の様々な長短所を検討しつつ、如何にして対立する利益をバランスよく折り合わせるかが重要となる。自動車税を考える場合もこれは例外ではないのだ。